働かざるもの食うべからずか

 ベーシック・インカムというものがあって、それは政府がすべての個人に無条件に最低生活費を渡すことです。
 そう言うと、こう尋ねられます。「いいんですか、そんなことして。働かざる者食うべからずではないのですか」

 さて「働かざる者食うべからず」なのでしょうか? 
 それは、それなりわかるんです。不動産収入や金利収入で食っている人を見ると、うらやましい。うらやましいけれど、「働かざる者食うべからず」と言いたくもなります。
 職場の皆が汗水たらしているときに、誰かぐうたらしている人がいると「誰のおかげで食ってるの?」と言いたくもなります。

 でも、科学技術の成果はどこにいったのでしょうか。働ける人たちがすべて働かないと、われわれは必要な生産を行うことができないのでしょうか。

 人類はずっと、働かなくても暮らせることを夢見てきました。できれば自分だってつらくてストレスの多い労働はしたくない。だから、働かない人をみるとたまらない思いが湧きます。
 でも、科学技術の進歩を見て下さい。ブルドーザーが1台あれば、奴隷1000人分くらいの仕事をしてくれます。昔だったら布を作るのはたいへんな仕事だったのに、今は工場の機械が自動的に大量の布を作り出します。銀行のコンピュータは、ソロバン計算を不要にしてしまいました。

 そうやって、たくさんの労働が不要になりました。そこで、もし、不要になった労働の分だけ人が職を失ったら、どうなるでしょうか。その人たちは、いったいどうやって食っていったらいいのでしょうか。生活できませんね。

 不要になる労働があって職を失う人が増えると、モノが売れなくなって企業が倒産し、いっそう失業者が増えます。
 現代では、生活のために、どんな非人間的な仕事であっても、無理にでも仕事を作り出すしかないのです。

 そこで、ベーシック・インカムの考えが出てくるのです。まずみんなに無条件で生活費を渡してしまおう。そうすれば、経済も循環します。すべての人を奴隷的な労働から解放することもできます。

 「働かざる者食うべからず?」、そんなことありません。どれだけの人が働けば必要な生産ができるかは、科学技術の問題であって、道徳の問題ではありません。
 人が働かなくなって困るって? 人間は仕事をすること自体は好きです。達成感のあることをするのも、人の役に立つことも、気持ちのよいものです。いま、労働が強制的で非人間的なものだから、働く意欲の湧かない人がたくさん生まれているのではないでしょうか。

(初出 『フォンテ』9月15日号)

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